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新米訪問看護師が日々勉強したことを書き残していくブログ

【番外編】換気扇の下へ、俺を連れて行け【忘れられない利用者さん①】

こんにちは、管理人のふくです🌿

 

早いもので毎日投稿を始めてみて4日目になります。

今日は番外編として私が忘れられない利用者さんのエピソードを書いてみようと思います。

 

※個人情報保護の観点から、エピソードや事例の中に出てくる利用者さんの名前、年齢、病名、家族背景、社会背景はすべて個人が特定されないよう、内容を変えて記載しています。私が感じたこと、看護として大切にしたいことを書きたいと思います。

 

私がまだ経験年数3〜4年くらいの頃だったと思います。

私は早いうちから在宅医療や地域医療に携わりたい気持ちがあり、病棟勤務時代から師長さんに在宅支援に関わる仕事に積極的に関わりたいと希望していました。そのため、退院時多職種カンファレンス(退院前にケアマネージャー、医療ソーシャルワーカー、医者などの多職種を交え、本人・家族と話し合うカンファレンスのこと)や、地域連携室との病院からの退院後の1日訪問(退院後の体調はどうか、在宅生活はどうか訪問すること)などに多く関わらせて頂いていました。

 

その中でかなりの無茶振り案件が。

その方はおそらく肺がんだったのでしょうが、職場の検診でレントゲンの陰影を指摘されて受診したそう。医者の前でも仏頂面、聞くと家族に連れられて無理やり受診したようでがんの疑いと伝えられると「俺はがんにはならない!」と怒ってそのまま帰宅してしまったようでした。

 

その受診からわずか1ヶ月後、明らかな呼吸不全で私の勤めていた病棟に即日入院になりました。肺がんだとしてもあまりにも急性増悪すぎる。家族に聞くと元々かなりのヘビースモーカーだったようで、そもそも肺のベースが悪く耐久力がなかったせいでしょうか、あっという間にマスク5Lの酸素量まで上がってしまいました。

 

そんな中でも本人は「帰る」とマスクを外して徘徊しようとしたり、点滴を引きちぎったりの大騒ぎ。主治医と家族の話し合いが行われ「本人の希望に沿って治療はせずに家に帰そう」という話になりました。本人には配偶者がいましたが、子どもはおらず。奥様も高齢でしたが「それでも夫の好きなようにさせたい」と仰ってくださいました。あまりにも呼吸状態の悪化が止められず1日でも帰ることを躊躇えばもう間に合わない…その日のうちに退院の準備を整えました。

 

あまりの苦しさに終末期せん妄も相まって暴言を吐きながら何度も点滴を抜こうとしてしまう。医療用麻薬も開始して呼吸苦を楽にできるよう整え介護タクシーへ。「俺の家!家だ!」とタクシーの中でも大暴れ。終末期せん妄なので「これから自宅に帰る」ということを説明しても理解できないんですね。タクシーの中で抜かれた皮下注射を、タクシーの中で再留置してようやく家に着きました。

 

この時点で交流量の酸素を流しているにもかかわらずSpO2は90%を切っていました。

 

タクシーから自宅までのわずか2段の段差すら足が上がらず、奥様と全介助でようやく自宅の玄関に御本人をおろした時、酸素マスクを床に投げ捨てて私に「換気扇の下へ、俺を連れて行け」と言ったんです。キッチンの換気扇までお連れするといつもそこで吸っていたであろうタバコと灰皿があり床に座り込んだままタバコを蒸かしたんです。

さっきまで10L近くの酸素を流していたので「マスクを投げ捨ててくれてよかった…」と半ば冷や汗をかきました。

 

奥様と訪問看護さんに今言っている医療用麻薬やCADDについて申し送りをした後に御本人さんに「では私は病院に帰りますね」と声をかけたら

 

にこっと笑って「おう、ありがとう。気をつけて帰れよ」と手を振ってくれました。

 

あんなに暴れていたのに、

終末期せん妄で、本当は朦朧としているはずなのに、です。

 

その日の夜にお看取りとなったと、後に奥様から連絡を頂きました。奥様は笑って、結局あなたが帰ったあと、麻薬用の点滴も引きちぎって、一度も酸素マスクをしなかった、でもあの人のいつもの姿のまんま、逝きました、と。

 

ご主人は頑固で、プライドが高く、でも本当は小心者だったと。だから「がん」という診断を付けられたくなかった。でも先生や看護師さんがすぐに退院させてくれたので、がんだと言われることもなく、いつもの換気扇の下でタバコを吸えてよかったと思う、と仰っていました。

当時は本当に大変な退院支援でしたが、私は彼の最後の笑顔で「家の持つ力はすごい」とより在宅への魅力を感じたんですね。あの時換気扇の下で笑った彼は、「病気を受け入れたくない問題患者さん」ではなく「頑固でタバコが大好きな、一家の主」の姿だったからです。

 

家では本来のその人の、家族の中での役割や立ち位置など本来の利用者さんそのものの姿を感じられるんですよね。「ちょっと頑固でわがままで、でも本当は相手への気遣いができるお父さん」その姿を最期を病院で迎えていたら私は知らないままだったかもしれません。

 

看護師と患者、という関係ではあるけれど、在宅のほうがより人と人との関わりを感じられる、そう強く感じたエピソードでした。

 

※繰り返しになりますが、個人情報保護の観点から、エピソードや事例の中に出てくる利用者さんの名前、年齢、病名、家族背景、社会背景はすべて個人が特定されないよう、内容を変えて記載しています。私が感じたこと、看護として大切にしたいことを書いています。

 

管理人:ふく